大丈夫大丈夫

間に合う

いける

あともうちょいでボールが 

早く早く

―――手にくる強い確かな感触

ほらあともうちょいで二連覇さ

イガラシはまだそっち

大丈夫大丈夫

大丈夫

 

 

 

 

「あ」

 

 

 

 

―ざあざあざあ

――ざあざあざあざあ

 

 雨は容赦なくすべてを濡らす。

疲れきった体、真っ黒のアスファルト、軒に掛かっている洗濯物、

うち沈んだお前の顔。

 荷物も制服ももうぐしょぐしょで雨をたっぷりと吸っていて重くて

体にはりついてきて冷たくて

靴下はもはや機能を果たしていなくてつま先はもう何の感覚もなくて

まだ家は遠くて

もう何もかも投げ捨ててしゃがみこみたいくらい疲れてるのに

お前がそんな顔をしているから。

 

下を向いたまま、荷物なんて今にも落としそうで

見てて哀れになるくらいぐっしょりと濡れてて

そのまま倒れてしまいそうで

 

「森口」

 

見てられない。

もう終わったじゃないか。

あれはしょうがなかった。

誰もお前のことなど攻めてないさ。

もうそんな顔するなよ。

 

森口はやっと足を止めた。

「もう気にするな」

こんな時にうまく言えない自分がもどかしい。

―森口はいつもこんな時おれの気持ちを分かってくれる。

おれは内気で無口でうまく言えないのだけれど

森口は「こうだろ?」っていつもリードしてくれた。

ずっとずっとおれの球を受けてきてくれて。

それも今日で終わりだなんて。

その終わり方がこんなむなしいものだなんて。

 

「な。帰ろう」

肩を抱いて歩き出す。

ざあざあと降る雨の中。

抱いた肩は悲しくなるほど冷たくて。

小さく全身で震えている。

とってもちいさく。そっと。

誰にも気づかれないように。我慢して。

押し殺した小さなかすれた嗚咽。

震えが止まらないようで、涙も止まらないようで。

 

もう少し、強く肩を抱いた。

 

 

 

―雨が心の中まで入ってくればいい。

キレいに、たまったものも全部アスファルトに流しちゃえばいい。

たまったものがなくなって

すーすーとして冷たく寒かったら

あたためて、あげるから

 

 

 

 

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